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宇都宮地方裁判所 平成8年(わ)307号 判決 1997年6月25日

本籍

栃木県矢板市上伊佐野一〇二二番地

住居

同県那須郡西那須野町新南郷屋一六三番地五九九

会社役員

金子一美

昭和一五年二月二五日生

主文

被告人を懲役二年に処する。

未決勾留日数中三〇〇日を右刑に算入する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、栃木県塩谷郡喜連川町にゴルフ場を建設するために、ゴルフ場用地の買収等を行っていた喜連川開発株式会社から、その用地買収等の業務を委託されて、地権者と土地の売買交渉をしていたものであるが、

一  同町大字下河戸一一六七番地に居住する荒井ヒロが平成三年中に土地を売却したことに関し、右荒井の依頼を受けて、同人の同年分の税務申告手続を行ったが、その際、同人の財産に関し、同人の所得税を免れようと企て、同人に架空の保証債務を計上するとともに、その履行のために同人所有の土地を譲渡し、かつ、その履行に伴う求償権の行使ができなくなったかのごとく仮装し、さらに、架空の譲渡経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成三年分の分離長期譲渡所得金額が五三六三万一九二六円、山林所得金額が一四一二万七九八七円であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、同郡氏家町大字氏家二四三一番地の一所轄氏家税務署において、同税務署長に対し、右荒井の平成三年分の分離長期譲渡所得金額が六三万一九二六円、山林所得金額が一四一二万七九八七円でこれに対する所得税額が一四四万〇八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額一二七〇万四八〇〇円と右申告税額との差額一一二六万四〇〇〇円を免れ、

二  前記喜連川町大字下河戸一二一五番地一に居住する松本一男から、同人が平成三年中に土地を売却したことによる同人の同年分の分離長期譲渡所得税を免れることについて相談を受け、右松本と共謀のうえ、同人の所得税を免れようと企て、同人に架空の保証債務を計上するとともに、その履行のために同人所有の土地を譲渡し、かつ、その履行に伴う求償権の行使ができなくなったかのごとく仮装し、さらに、架空の譲渡経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成三年分の実際総所得金額が二二二万四七六九円、分離長期譲渡所得金額が一億二一一四万〇四一七円、山林所得金額が三〇九三万〇四〇〇円であったにもかからわらず、平成四年三月一六日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右松本の平成三年分の総所得金額が二二二万四七六九円、分離長期譲渡所得金額が四六一四万〇四一七円、山林所得金額が三〇九三万〇四〇〇円でこれに対する所得税額が一四三五万七〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額三三一〇万七〇〇〇円と右申告税額との差額一八七五万円を免れ、

三  前同町大字下河戸一〇二番地に居住する輕部亨から、同人が平成四年中に土地を売却したことによる同人の同年分の分離長期譲渡所得税を免れることについて相談を受け、右輕部と共謀のうえ、同人の所得税を免れようと企て、架空の譲渡経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成四年分の実際総所得金額が三一二万二〇五三円、分離長期譲渡所得金額が三億〇七九四万四五六八円、山林所得金額が一五七〇万三二〇〇円あったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右軽部の平成四年分の総所得金額が三一二万二〇五三円、分離長期譲渡所得金額が六九八一万九五一七円、山林所得金額が一五七〇万三二〇〇円でこれに対する所得税額が二二六七万四一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額九四一一万一六〇〇円と右申告税額との差額七一四三万七五〇〇円を免れ、

四  前同町大字公鷲宿三九〇七番地の一八に居住する伴健一が平成四年中に土地を売却したことに関し、右伴の依頼を受けて、同人の同年分の税務申告手続を行ったが、その際、同人の財産に関し、同人の所得税を免れようと企て、同人に架空の保証債務を計上するとともに、その履行のために同人所有の土地を譲渡し、かつ、その履行に伴う求償権の行使ができなくなったかのごとく仮装するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成四年分の分離長期譲渡所得金額が二九〇八万八六六六円、山林所得金額が一〇一三万六三九二円あったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右伴の平成四年分の分離長期譲渡所得金額が〇円、山林所得金額が一〇一三万六三九二円でこれに対する所得税額が九七万八六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額九六三万五〇〇〇円と右申告税額との差額八六五万六四〇〇円を免れ、

五  同町大字下河戸一一四〇番地に居住する加藤康夫が平成四年中に土地を売却したことに関し、右加藤の依頼を受けて、同人の同年分の税務申告手続を行ったが、その際、同人の財産に関し、同人の所得税を免れようと企て、同人に架空の保証債務を計上するとともに、その履行のために同人所有の土地を譲渡し、かつ、その履行に伴う求償権の行使ができなくなったかのごとく仮装するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成四年分の総所得金額が三二五万八六〇〇円、分離長期譲渡所得金額が三二五〇万九九八七円、山林所得金額が八六九万七五二九円あったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右加藤の平成四年分の総所得金額が三二五万八六〇〇円、分離長期譲渡所得金額が二五〇万九九八七円、山林所得金額が八六九万七五二九円でこれに対する所得税額が一六五七万七四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額一〇六五万七四〇〇円と右申告税額との差額九〇〇万円を免れ、

六  同町大字下河戸一三一番地に居住する川上隆三が平成四年中に土地を売却したことに関し、右川上の依頼を受けて、同人の同年分の税務申告手続を行ったが、その際、同人の財産に関し、同人の所得税を免れようと企て、同人に架空の保証債務を計上するとともに、その履行のために同人所有の土地を譲渡し、かつ、その履行に伴う求償権の行使ができなくなったかのごとく仮装するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成四年分の分離長期譲渡所得金額が三〇一〇万三五八九円、山林所得金額が一三八三万五二〇〇円あったにもかかわらず、平成五年三月一五日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右川上の平成四年分の分離長期譲渡所得金額が五一〇万三五八九円、山林所得金額が一三八三万五二〇〇円でこれに対する所得税額が二六九万三九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額一〇一九万三九〇〇円と右申告税額との差額七五〇万円を免れ、

七  同町大字下河戸一一七三番地に居住する荒井フミが平成五年中に土地を売却したことに関し、右荒井の依頼を受けて、同人の同年分の税務申告手続を行ったが、その際、同人の財産に関し、同人の所得税を免れようと企て、架空の譲渡経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成五年分の分離長期譲渡所得金額が五五七〇万四三二二円、山林所得金額が二九万五二〇〇円あったにもかかわらず、平成六年三月一五日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右荒井の平成五年分の分離長期譲渡所得金額が八二〇万〇一四二円、山林所得金額が二九万五二〇〇円でこれに対する所得税額が二三六万五〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額一六六一万六二〇〇円と右申告税額との差額一四二五万一二〇〇円を免れ、

八  同県那須郡小川町大字小川二八五九番地に居住する薄井武雄が平成五年中に土地を売却したことに関し、右薄井の依頼を受けて、同人の同年分の税務申告手続を行ったが、その際、同人の財産に関し、同人の所得税を免れようと企て、架空の譲渡経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成五年分の総所得金額が五六七万四一五三円、分離長期譲渡所得金額が一億〇五二七万三二三三円、山林所得金額が一一九〇万円あったにもかかわらず、平成六年三月一五日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右薄井の平成五年分の総所得金額が五六七万四一五三円、分離長期譲渡所得金額が二四五二万三一一八円、山林所得金額が一一九〇万円でこれに対する所得税額が八四八万二二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額三二七〇万七二〇〇円と右申告税額との差額二四二二万五〇〇〇円を免れ、

九  同県塩谷郡喜連川町大字下河戸三四二番地に居住する加藤喜一が平成五年中に土地を売却したことに関し、右加藤の依頼を受けて、同人の同年分の税務申告手続を行ったが、その際、同人の財産に関し、同人の所得税を免れようと企て、同人に架空の保証債務を計上するとともに、その履行のために同人所有の土地を譲渡し、かつ、その履行に伴う求償権の行使ができなくなったかのごとく仮装し、さらに、架空の譲渡経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成五年分の総所得金額が三八七万二六一一円、分離長期譲渡所得金額が八三九八万八九〇〇円、山林所得金額が一〇二万二八〇〇円あったにもかかわらず、平成六年三月一五日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右加藤の平成五年分の総所得金額が三八七万二六一一円、分離長期譲渡所得金額が〇円、山林所得金額が一〇二万二八〇〇円でこれに対する所得税額が一二万四六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額二五三二万一〇〇〇円と右申告税額との差額二五一九万六四〇〇円を免れ、

一〇  同町大字下河戸一〇一九番地に居住する戸村仁一が平成五年中に土地を売却したことに関し、右戸村の依頼を受けて、同人の同年分の税務申告手続を行ったが、その際、同人の財産に関し、同人の所得税を免れようと企て、同人に架空の保証債務を計上するとともに、その履行のために同人所有の土地を譲渡し、かつ、その履行に伴う求償権の行使ができなくなったかのごとく仮装し、さらに、架空の譲渡経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成五年分の総所得金額が三八九万三八四二円、分離長期譲渡所得金額が一億〇二八一万六九五〇円、山林所得金額が五九三万一四〇〇円あったにもかかわらず、平成六年三月一五日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右戸村の平成五年分の総所得金額が三八九万三八四二円、分離長期譲渡所得金額が五四四万八九二四円、山林所得金額が五九三万一四〇〇円でこれに対する所得税額が二三四万〇六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額三一五五万一〇〇〇円と右申告税額との差額二九二一万〇四〇〇円を免れ、

一一  同町大字下河戸八二番地に居住する輕部光雄が平成六年中に土地を売却したことによる同人の同年分の分離長期譲渡所得税を免れることについて相談を受け、右輕部と共謀のうえ、同人の所得税を免れようと企て、同人に架空の保証債務を計上するとともに、その履行のために同人所有の土地を譲渡し、かつ、その履行に伴う求償権の行使ができなくなったかのごとく仮装し、さらに、架空の譲渡経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成六年分の実際総所得金額が六八九万〇六二五円、分離長期譲渡所得金額が六億一八七七万〇五〇〇円あったにもかかわらず、平成七年三月一五日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右輕部の平成六年分の総所得金額が六八九万〇六二五円、分離長期譲渡所得金額が二五五三万九四五八円でこれに対する所得税額が六三三万八三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額一億八三九八万一七〇〇円と右申告税額との差額一億七七六四万三四〇〇円を免れ、

一二  同町大字鷲宿八四六番地に居住する村上太一が平成六年中に土地を売却したことによる同人の同年分の分離長期譲渡所得税を免れることについて相談を受け、右村上と共謀のうえ、同人の所得税を免れようと企て、架空の譲渡経費を計上する方法により所得を秘匿したうえ、同人の平成六年分の実際総所得金額が三八四万四四五四円、分離長期譲渡所得金額が一億六〇一〇万六〇〇〇円、山林所得金額が一七四二万三八〇〇円あったにもかかわらず、平成七年三月一五日、前記氏家税務署において、同税務署長に対し、右村上の平成六年分の総所得金額が三八四万四四五四円、分離長期譲渡所得金額が八三五万五二五〇円、山林所得金額が一七四二万三八〇〇円でこれに対する所得税額が三四三万四八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の同年分の正規の所得税額四七九〇万七六〇〇円と右申告税額との差額四四四七万二八〇〇円を免れた。

(証拠)本項のかっこ内の数字は検察官請求証拠の番号である。

判示全事実につき

一 被告人の当公判廷における供述

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲55、229)

判示一の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙31)

一 荒井ヒロ、大澤秀利(甲88)、松本周光(甲89)及び野村隆(甲90)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲91、95、98)、修正損益計算書(甲96)及び脱税額計算書(甲97)

一 押収してある平成三年分所得税確定申告書一枚(平成八年押第九七号の2)

判示二の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙37)

一 松本一男、大澤秀利(甲129)、松本周光(甲130)及び野村隆(甲131)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲132、138)、修正損益計算書(甲136)及び脱税額計算書(甲137)

一 押収してある平成三年分所得税確定申告書一枚(前同押号の4)

判示三の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙28、29)

一 輕部亨(乙24から27)、大澤秀利(甲70)、磯嶋康雄(甲71)、松本周光(甲72)、野村隆(甲73)及び輕部カツイ(二通)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲76、77、85)、修正損益計算書(甲84)及び脱税額計算書(甲83)

一 押収してある平成四年分所得税確定申告書一枚(前同押号の1)

判示四の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙38)

一 伴健一、大澤秀利(甲141)、松本周光(甲142)及び野村隆(甲143)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲144、150)、修正損益計算書(甲148)及び脱税額計算書(甲149)

一 押収してある平成四年分所得税確定申告書一枚(前同押号の5)

判示五の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙39)

一 加藤康夫、加藤茂之、大澤秀利(甲154)、松本周光(甲155)及び野村隆(甲156)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲157、163)、修正損益計算書(甲161)及び脱税額計算書(甲162)

一 押収してある平成四年分所得税確定申告書一枚(前同押号の6)

判示六の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙40)

一 川上隆三(二通)、大澤秀利(甲157)、松本周光(甲168)及び野村隆(甲169)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲170、176)、修正損益計算書(甲174)及び脱税額計算書(甲175)

一 押収してある平成四年分所得税確定申告書一枚(前同押号の7)

判示七の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙41、42)

一 荒井フミ、大澤秀利(甲179)及び野村隆(甲180)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲181、188)、取得費調査書(甲185)、修正損益計算書(甲186)及び脱税額計算書(甲187)

一 押収してある平成五年分所得税確定申告書一枚(前同押号の8)

判示八の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙43)

一 薄井武雄、中山義雄、大澤秀利(甲192)及び野村隆(甲193)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲194、201)、取得費調査書(甲198)、修正損益計算書(甲199)及び脱税額計算書(甲200)

一 押収してある平成五年分所得税確定申告書一枚(前同押号の9)

判示九の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙44)

一 加藤喜一、大澤秀利(甲204)、坂栄一(甲205)及び野村隆(甲206)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲207、214)、取得費調査書(甲211)、修正損益計算書(甲212)及び脱税額計算書(甲213)

一 押収してある平成五年分所得税確定申告書一枚(前同押号の10)

判示一〇の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙45)

一 戸村仁一、大澤秀利(甲217)、坂栄一(甲218)及び野村隆(甲219)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲220、227)、取得費調査書(甲224)、修正損益計算書(甲225)及び脱税額計算書(甲226)

一 押収してある平成五年分所得税確定申告書一枚(前同押号の11)

判示一一の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙14から19)

一 輕部光雄(甲3から9)、大澤秀利(甲1、2)、真辺文宏(二通)、吉久保恭彦、森田昭三、金子大、坂栄一(甲8)、野村隆(甲9)及び輕部ヒロ子(三通)の検察官に対する各供述調書

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲55、64、69)、収入金額調査書、取得費調査書(58)、譲渡費用調査書、特別控除調査書、保証債務履行金額調査書、脱税額計算書(甲66)、修正損益計算書(甲67)及び査察更正決議書

判示一二の事実につき

一 被告人の検察官に対する供述調書(乙32から34)

一 村上太一(一〇通)、大澤秀利(甲114)、野村隆(甲115)及び荒巻はつ江の検察官に対する各供述調書謄本

一 大蔵事務官作成の査察官報告書(甲117、119から122)、その他所得・取得費調査書、修正損益計算書(甲123)及び脱税額計算書(甲124)各謄本

一 押収してある平成六年分所得税確定申告書一枚(前同押号の3)

(法令の適用)

罰条

判示一、四から一〇につき

各所得税法二三八条一項、二四四条一項

判示二、三、一一、一二につき

各所得税法二三八条一項、平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条

刑種の選択

各懲役刑選択

併合罪加重

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示一一の罪の刑に法定の加重)

未決勾留日数の算入

刑法二一条

(量刑の事情)

本件は、栃木県塩谷郡喜連川町にゴルフ場建設を企画した鹿島建設株式会社の子会社で、ゴルフ場用地の買収等を行っていた喜連川開発株式会社から、総額三億九〇〇〇万円の報酬の約束で、その土地買収等の業務を委託されて、地権者と土地売買交渉をしていた被告人が、委託の趣旨に沿って早期に買収を完了しようと考えて、地権者から依頼を受けてその者と共謀し、あるいは、地権者の手取金額増額の要求等を実現する方策として被告人の独断で、地権者の土地売却によって得た所得にかかる所得税を免れたものである。多額の債務を負っていた被告人が、土地買収を成立させることで、委託契約による自己の報酬を早く得ることを期待し、次々に脱税行為に及んだものであって、動機に芳しくないところがある。その態様は、被告人自らが主導的に脱税の方策を考え出し、種々の内容虚偽の書類を作成して、架空の債務あるいは費用を計上したりして、過少申告をしたものであって、計画的で、巧妙悪質な犯行である。結局、約三年間にわたり、合計一二名の所得税の脱税を次々に行って、総額四億四一六〇万円余もの多額の税金を免れており、現実に、国家に相当額の損害を与えたばかりでなく、租税の公平負担の原則に反して納税義務を尽くさず、誠実な納税者を欺くとも言える行為であり、我が国の申告納税制度にも少なからず影響を与えるものと考えられる。これらを総合すると、被告人の刑事責任は誠に重大である。

そうすると、本件犯行が、買収金額を低く抑えたい委託会社と手取り金額を多くしたい地権者との間に立って、窮余の策としてなされた面も窺われ、被告人自身の利得のためだけで行われたものでもないこと、事件発覚後、各納税義務者によって、脱税分の相当額が納付されていること、被告人は、捜査段階から、事実を素直に認め、反省の態度を示していること、逮捕以来相当長期にわたり身柄の拘束を受けていること、これまで罰金の前科一犯だけで他に前科はないことなど斟酌できる事情を考慮しても、到底刑の執行を猶予することはできず、主文の刑が相当である。

(検察官山川景逸、弁護人横堀晃夫出席)

(裁判官 山田公一)

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